ワックスモデリングとは、ワックス(ろう)を使ってジュエリーの原型をつくる方法です。
ロストワックス鋳造(ちゅうぞう)法とも言われます。
ろう(ワックス)が失われる(ロスト)という意味で、ろうが溶けて、その空洞に地金が鋳造(キャスティング)されるということを意味します。
ワックスは金属に比べて極端に柔らかいため、無理な力を入れなくても自分の望むとおりに加工できます。
金属では作りにくい流れるような曲線の製品が自由に作れたり、いろいろな表面加工の処理を行うことができます。
ワックスモデリングの魅力
- 金属では表現しづらい、ボリューム感のあるデザインや曲線的なデザインが自由にできます。
- ワックスは溶かしやすいため、盛り付けたり足したりすることが簡単にできので、削りすぎた時などの修正が容易です。
- ワックスは柔らかく溶かしやすいため、表面にいろいろなテクスチャーを表現することができます。
また、ワックスモデリングは、初心者や個人のデザイナーさんにとって制作する上での魅力もあります。
- 金属を加工したことがない初心者でも気軽に取り組みことができます。
- 作業机が一つあれば十分なので、大きな設備は必要ありません。
- 比較的短い時間で、ある程度の製品を制作することができます。
- ワックスの加工中は、ほとんど音が出ないため、静かに作業することができます。
- 工具も少なくて済みます。また、ワックスなので工具もほとんど消耗することなく経済的です。
ワックスモデリングでのジュエリー制作の流れ
ワックスモデリングでのジュエリー制作は、おおまかに言うと、次の3つのステップになります。
- ワックス(ロウ)を切り出し、切ったり、削ったり、盛り付けたりしながら、ジュエリーの形を整えていきます。
- ワックスでつくられた原型はキャスティング(鋳造)します。
- 石留め、仕上げ磨きをして、ジュエリーが完成します。
それでは、これから具体的にワックスモデリングによる制作ポイントを解説していきます。
ワックスとは
ワックスは、その硬さによって、
- ハードワックス
- ソフトワックス
の2つに大別されます。
ハードワックスは、糸のこややすり、カッターナイフで切る、削ることができるジュエリーモデリング用に開発されたものです。
融点は、100~120℃です。
ソフトワックスは、常温またはアルコールランプに軽くあてるくらいの温度で、曲げたりねじったりすることができるワックスです。
融点は、60℃前後です。
ワックスの形
ワックスの形には、様々な種類があります。
制作するジュエリーのデザインに応じて、ワックスを使い分けましょう。
リング用の穴があいたチューブワックス
リング専用のハードワックスです。
断面が、月型甲丸状(つきがたこうまる)、印台状、平打状などあります。
大きめの箱状のブロックワックス
ボックスタイプのワックスで、ペンダントやブレスレット、ブローチなど大ぶりなジュエリーを制作するときに使います。
薄い板状のシートワックス
ローラーで薄くのばすことができるので、厚みは自由に調整できます。
柔軟でねばりがあるため、ヒビが入りにくいソフトワックスです。
細い線状のワイヤーワックス
線状のワックスで、断面の形は、丸や甲丸などがあります。
太さは直径0.5mmから6.0mmまで何種類か揃っています。
メッシュ状になったワックス
メッシュ状のペンダントやブローチなどを制作するときに便利なワックスです。
曲げたり溶かしたりできます。
ワックスの成分
ワックスは、完全に燃えてなくなることが絶対条件です。
そして、加工するためにはある程度の硬さとねばりも必要です。
樹脂やパラフィン、天然ロウを原料に、使用目的に応じて各メーカーによって製造されています。
ワックスの色
ワックスには、赤、ピンク、青、緑、紫、黄、白など、いろいろな色があります。
色によって、ある程度の硬さやねばりがどれくらいあるのか判断することができます。
しかし、メーカーによって性質が異なるので、色だけで判断することなく、商品の仕様を確認しましょう。
ワックスモデリングの工具
削る
・ワックス用やすり
荒削りするときに使う、目詰まりしない専用の粗目のやすりです。
・金属やすり
ワックス用やすりで荒削りしたあと、削り面を整えるときに金属やすりの荒目や中目を使います。
切る
・糸のこフレームとワックス用のこ刃
ハードワックスを切るときに、糸のこのフレームにセットして使うワックス専用ののこ刃です。
・小型のこぎり
ワックスを切るときに使います。
主にブロックワックスの切断に使います。
・カッターナイフ
ソフトワックスを切るときに使います。
・ワックス専用彫刻刀
刃先を使いやすいように改良したワックス彫刻専用の彫刻刀です。
・彫刻刀
ワックスを立体的に削り込む場合や、鋭い切断面を出したいときに使います。
・スパチュラー
先端を熱してワックス同士をつけたり、盛ったりするときに使います。
切ったり、彫ったり、形を整えたりするときにも使います。
先端の形は使用目的に応じて何種類か用意します。
穴をあける
・ハンドモーター(リューター)
先端にバーをセットし、穴をあけたり、削ったり、裏抜きをするときに使う電動工具です。
金属の仕上げにも使え、一台あると便利な工具です。
・ワックスリーマー
リングの穴を大きくするときに使います。
既製のチューブワックスの穴は8番ぐらいなので、それ以下のサイズはブロックワックスをカットして、ワックスリーマーを作ってつくります。
測る
・電子はかり
重さを測るときに使います。
・スケール
長さを測るときに使います。
・ノギス
厚みや太さを測るときに使います。
平行に削れているか確認することにも使います。
・スライディングゲージ
ワックスの厚みを測るときに使います。
へこんだ部分の厚みも測れます。
・サイズ棒
リングのサイズを確かめるときやソフトワックスを巻き付けてリングにするときに使います。
キャスティング(鋳造)
キャスティング(鋳造)とは、ワックス原型を元に鋳型をつくり、地金を流し込み、急冷してジュエリーを作り出す方法です。
キャスティングには、いろいろな設備が必要になるので、ご自身でやるより、専門業者に依頼する方が多いと思います。
しかし、キャスティングの制作プロセスを理解しておくことは大切です。
キャスティング(鋳造)の作業プロセス
ワックス原型
制作したワックス原型にヒビが入っていたり、キズがないか確認します。
湯口つけ
ワックスペンなどで、原型にスプレーワックスを接合します。
湯口と言われる、溶解した地金が流れる通路を作ります。
組み立て
ゴム底に、湯口をつけたワックス原型をセットします。
埋没材注入
ゴム台に円筒状のフラスコをかぶせ、水で溶いた石膏を流し込みます。
脱泡
石膏に含まれている気泡を真空脱泡装置などで取り除き、製品の表面に金属玉ができるのを防ぎます。
脱ロウ
自然乾燥して石膏が固まったら、電気炉に入れて、ワックスを溶かし出します。
焼成
高温で石膏を焼き固め鋳型を作ります。
鋳造(キャスティング)
鋳型にどろどろに溶かした金属を流し込みます。
空洞部分の隅々まで溶けた地金が流れ込み、鋳型の中に湯口つきのリングができます。
埋没材除去
鋳造機から取り外し、急冷して石膏を粉砕します。
湯口切断
酸洗いして鋳造した後の金属の表面をきれいにし、湯口を切断します。
鋳造のままでは、表面がザラついているので、工具で研磨して仕上げます。
キャスティングでの縮み
ワックスで作った原型で、キャスティングをして金属になると、ほんの少し縮みます。
リングサイズでいうと、K18で0.4番くらい、プラチナやシルバーで0.05~0.1番ほど縮みます。
そのため、ワックス原型は縮みを考慮に入れて制作する必要があります。
キャスティングでの地金の重さの計算方法
金やプラチナは高価ですから、数グラムの重量の差が大きな価格の差になります。
そのため、ワックスで作った原型をキャスティングしたときにどれくらいの重さの地金になるか、あらかじめ計算しておく必要があります。
地金の重量を算出するための計算方法は、比重を使います。
ワックスの比重を1.0と考えます。
シルバー950は、10.4
K18は、15.5
プラチナ(Pt900)は、19.9
たとえば、ワックス原型で1.0gあるものをK18のゴールドでキャスティングすると、必要な地金の重さは、
1.0g(ワックス原型の重量)×15.5(K18の比重)=15.5g(地金の重量)
になります。
計算された15.5gにK18の市場価格をかけると、必要な地金のコストが算出できます。